vol.03 大阪発達総合療育センター看護部長 中山 昌美
理解に近づく看護は、話を聞くことからはじまる

今までの看護経験の中で印象的だったことは?

印象に残っている患者さんは沢山いらっしゃいますが…。
思い出されるのが…若い男性の患者さんだったのですが、癌でした。 癌と知りながら結婚なさって、奥さんの妊娠中に亡くなられてしまいました。 美容師をされていたんです。
自分のお店を持って一生懸命働き始めたところで癌がわかりました。
入院をせざるを得ない状況でも「店のことが気になる、店に行きたい」って。
看護師がついて行くからお店に連れて行って差し上げようかっていう計画もしていました。「お店の1周年記念だからね、店に行きたい」と。 しかし呼吸困難が強くなって行けなくなり、お店の人みんなが部屋に来てくださって、1周年をケーキでお祝いしました。
それが3年くらい前ですかね。お子さんも生まれました。今でもその奥様とは文通しています。

素敵な関係性が続いているのですね。

本当にたくさんの患者さんと出会って、こちらが勇気をもらったことも沢山ありますし、「いつも話を聞いてくれてありがとう」とか言って頂けたりね。
患者さんの中には、話を聞くだけでいいと言われる方がいます。
痛み止めを飲むより話を聞いてもらうほうが精神も安定して、痛みがマシと言われる方もいるくらいです。
病気以外のこと、特に患者様の今までの生活のお話をしますね。
故郷のことや、お仕事のこと…すごく大変だったでしょって言ったら「そうやねん、自分はずっと屋台でラーメンを引いてるんや」なんて(笑)。
患者さんのことを100%理解することはできないかもしれないけど、理解に近づいていかなければその人に合わせた看護を提供できないと思うのです。

私の看護の原点に大段智亮先生という方がいます。
その方の「人間理解」という本の中には、「人間というのは完全に理解することはできないけれども、理解に近くすることができる。それには話を聞いてあげることから始まる」と書かれています。
目の高さを合わせ、聞いて差し上げるっていうところから始まるかなと。

病院に入ると笑顔の患者さん、笑顔の看護師さんの姿がとても印象的でした。

ここは家と一緒なんですよ。
そしてみんなは「家族」ということをモットーとしています。 自分の子供だったらどうするの?痛い目に合わせられるの?と。
当センターの看護理念にある「あたりまえに生きる」ということは家族がいる安心感とか、そういうことにつながってくるんですね。
私は着任して3ヶ月ですが、当センターは本当にはあたたかい感じだなあと思いました。
「生活を支える」部分は特にその人に合った方法で、と考えられています。
看護師がイキイキとしており、満足感のある笑顔が沢山見られます。患者さんと一体感があるという点ではどこの病院よりも進んでいるんじゃないかな?

看護師さんに資質が必要だと思いますか?

看護師さんの資質ってね、やっぱり優しい気持ちがある人と元気さですね。
私はそれとともに、チームワークが大事だと思います。看護は1人でできないでしょう?
看護は連続性でつながっているから、切れ目なく看護をしていくために患者さんを待たせないというのがすごく重要なんです。
「患者さんを待たせない」という点ではナースコール。ナースコールってその名前の通りナースを呼んでいるんですよね。 私も入院経験がたくさんあるんですよ。8回くらい入院したことがあります。
全然動けなく、ベッドの上で寝たきりになってトイレも行けなくてって…いう時期がありました。その時、看護師さんに「来てほしい!」とナースコールをして泣いていたんです。
だから、看護師さんは患者さんにとっては1番来てほしい人。私の場合どんどん力が弱くなってきて、ペンも持てなくなり、動けなくなったらどうしよう、と不安がいっぱいでした。その時の経験で改めて看護師さんの存在の大きさに気づきましたね。

今後、病院よりよくしていくためにお考えのことはありますか?

看護は今が最高じゃないと思います。それはどこの病院でも。
なので、もっと看護を良くしていくためにみんなでどうしていくかっていうことを話し合っています。
具体的には業務改善や看護の改善への着手です。
今まで表面に出てこなかったことも、調査を行い、そのデータが出たところから分析をしています。
みんなで話し合う材料になりますね。その結果から何か一つでも改善できたらさらに良い看護に繋がると思っています。

看護はやりがいの高いお仕事なので、自分がやればやるだけ満ち足りて、「もっとしたい!」と思える仕事です。
そのやりがいを見つけるためには看護をやらないと始まらないし高まりません。
是非潜在看護師さんなど、免許を持っているけど働いていない方に看護の実践をしていただきたい。
そして自分を高めていけるようになってもらいたいです。
実践の中から看護の歓びを知り、そして続けていってもらいたいです。