vol.10 生駒市立病院看護部長 辻川 美代子
人としてどうあるべきかを問われる現場。焦らず、丁寧に優しい心を育ててほしい。

市民のみなさんに愛され頼りにされる病院に

生駒市立病院は生駒市が設置し医療法人徳洲会が運営している病院です。年に何回か市民の皆さんも会議に参加していただき、一緒になって地域医療を支えていくことができるのは大きな魅力ですね。
最近では、市民の皆さんにもっとこの病院を知っていただくため、病院の講堂では地域の方が参加できる医療講演を定期的に開催しています。また最近では「生駒の医療を良くする会」の皆さんがワールドカフェを開いてくださり、参加させていただきました。
「この病院にきてよかった」と思ってもらえるようなおもてなしをするために、患者さんからのお声で耳の痛いところは真摯に受け止めて、改善することのできる地域に根差した病院を目指しています。

教育の特色である「成長録」。発案のきっかけは?

看護部長になった当時、どんな看護部を創っていきたいのかと自分に問いかけました。私もかつて新人の時は何も分からないまま、目の前の課題に四苦八苦しましたし、結婚・出産の時期には仕事と家庭のどちらに重点をおけばいいのか、どのようにキャリアアップを積んでいけばいいのか、たくさんの悩みにぶつかってきました。
それら自分が経験してきたことを踏まえて『時間が過ぎればあらゆることは確実に身につく。なるようになるから、焦らなくていいんだよ』ということをどのように看護師たちに伝えられるのかと考えました。
そこで、自分が問いかけ、自分が答えていく形の記録を残しておくといいなと考えました。日記だと毎日書かないといけないので、“3日坊主にならないものを”をコンセプトに、難しく考えなくても自然と綴っていけるようなものを目指しました。
時には悩んで苦しんで「私ってやっぱり看護師に向いてないんじゃないかな…」と思うこともあるでしょう。でも迷いながらもずっとこの仕事を続けている人がたくさんいます。そんな一人ひとりのために、白衣を脱ぐ時までの成長記録があったらいいなと。

さらなる特色、全部署ローテーション研修のメリット

入職する前に思い描いている看護の世界と実際の現場とのギャップは大きいですよね。
でも経験してみないと分からないことがたくさんあるので、当院では「全部署ローテーションシステム」という、看護に関わるすべての部署を回るという教育システムがあります。
「ここは居心地がいいな、肌にあうな」と自分で感じることがすごく大事だと思いますし、モチベーションが上がり、やりがいのある看護が見つけられれば、とても幸せなことではありませんか?ローテーション研修は『あなたはまだ自分の可能性を知らない。たくさんの現場を経験することで、、何かが見えてくるとが絶対ある。だから行ってらっしゃい!』という私からメッセージも含まれています。
もし配属された部署が合わなくても次の部署はぴったりと合うかもしれませんし、今は期間限定だという考え方ができれば、ここで頑張ったら次にいけると切り替えられます。それが新人の離職率を大きく減らすことになっています。

「相手を知る」ことで生まれる、人と人との思いやり

当院のように全部署、しかもコメディカルまでのぞきにいけるなんて、なかなかないと思うんです。
コメディカルの人達にも、それぞれの所属長には自分の部署のどの時間帯が忙しく、何が大変なのかをぜひ教えてあげてほしいと伝えています。例えば薬剤師さんの仕事は薬を調剤するだけでなく、薬の棚卸や発注などもあります。表にはみえていないところを知ることで、『相手を思いやる』ということにつながるのではと考えました。
栄養科では、下膳をしたときに患者さんの私物が残っていると誰のかがわからない。そこで看護師たちが事前に気づいて、患者さんに返しておくという気配りができるようになります。
知らない人が知っている人に変わると、相手を思いやることができる、「ありがとう」という言葉が自然と出てくるようになる。その結果、他部署やコメディカルのスタッフも仕事がやりやすくなり、病院全体がよい方向に向かうと思っています。
ローテーション自体はこれまで改良を重ね、最終的に「2年間ですべての部署を回るコース」、「1年間のショートコース」、「部署を選択できるセレクトコース」、「新人限定で1年間は1つの部署所属」という4つのコースで落ち着きました。
3年目は離島研修もあります。徳洲会だからこそ経験できることです。一見遠回りしているように見えるけど、実は多くの場面に、たくさんの気づきを持てるという点で大きなメリットとなっています。

人生100年時代 本音と「丁寧」な看護で向かい合う

とにかく言いたいのは「あなたが決めるのよ」ということ。
誰かにやらされて看護師になるのではなく、すべてはあなた自身が決めるのです。
生きているといろんなことが起きます。「後悔先に立たず」。けれど後では解決しようがありません。だから「あの時私がもう少し丁寧にやっておけばよかったな」と思えると、次に活かせる。
私のモットーは「丁寧」なんですよ。丁寧に行動すればそれは、人を大切にすることにつながります。
看護師を目指す方には「やさしさ」、そして「自分以外の誰かのために役にたちたい」と思う気持ちを育てていってほしいなと思います。
私たちの仕事は対人間。体を病んで、心を病んでる人たち、その人たちにケアをするときに看護師の思うようには絶対いかないので、「待つ」ということがとても求められます。
そこに私たちが学んできた専門職として必要な知識・技術をいかに患者さんのために駆使しながら寄り添っていけるかと考えていくことが必要になります。

この仕事は奥が深くて素晴らしいです。患者さんは0歳から100歳以上の人までいて、皆さん本音をみせてきます。
病院の中では常に、人間の最奥の本心がむき出しになり、私たちはその人たちの一番近くにいる。そんな人たちの生きざまを見聞きして「自分は人としてどうあるべきか」と考えさせられます。
日々多くのことに気づかされ、成長しつづけていけるのが看護の仕事だと思っています。